健太と杉本さんの反省会
実は、健太は運転免許を取るつもりで、練習していたがバス会社に勤める杉本さんが、健太の運転ぶりを見て
「それじゃ新車がダメになるよ」と、言われた。
2~3日経った夜に支店に遊びに来てくれて、車の構造から基本を教えて呉れたので、何とか運転は出来るようになっていた。
「何であんな迂回路で滑ったんだよ」と、怒られた。
杉本さんがトラックを引き取りに行くときに、現場を見たようだ。
4人乗って社長の居眠りでシフトチェンジが出来ず、カーブでブレーキを踏むことになったことを話すと
「な~んだ やっぱりそうか、この間は何か隠しているなと感じたんだが、話したくないようだったから、無理に聞かなかったよ。健ちゃんにはあんなに丁寧に教えて、エンジンブレーキも自在に使って居たのに可笑しいと思ったんだよ」
「シフトレバーが向こうに押されて、片手じゃ動かないし30キロ位かな、発車の時はキチンと座って居たんですが、暖房掛けて5分もしない内に眠ったようで、平たんな道で交差点もすんなり来たので、シフトは変えることも無かったのが、逆に悪い方向に働いたんだね」
「大体4人も乗っちゃったら、俺だって運転できなくなるよ、バスは一人椅子だから大丈夫だが、ベンチシートは座れるから良くないんだな」と、杉本さんも嘆く。
「そうか自衛隊さんも、交通取り締まりは関係ないから免許証の番号なんか控えないか、それはラッキーだったね」
「早く免許を取ることが大事だね、でも~写真屋さんが運転免許は必要無いって言われそうだし、悩ましいね」と、笑う。
顔なじみのバーベキュー
そのころ営林署の若手が3人と、久住さんの姉妹と杉本さんなど6~7人で焼き肉パーティーをやった。
話が盛り上がって、オードリーヘップバーンの「ローマの休日」登別温泉で上映している話から、これから見に行こうという事になった。
杉本さんはバスの運転手で、夜はカルルス泊まりになり、みんなから信頼される兄貴分だ。みんなが杉本さんの顔を見る、慌てた杉本さんが
「ダメだよ無許可で定期バスを走らせないんだよ」と、一発で拒否。
「でもちょうど、いいタイミングだけどなぁ~」と、鈴木旅館の娘で夏休みで実家に戻っていた、薫さんが残念そうだ。
「そうだな、これなら上手く行きかな」と、上の方を眺めて独り言みたいに言う。
みんなも、つられて空を見ている。
「な~にも無いじゃないですか」と、営林署の新人の葛西くんが文句みたいに口を尖らしている。
「そんなに高い所じゃないよ、このトラックだよ」
「えっつ、このトラックですか?」と、健太が驚く。
「これはダメでしょう、せいぜい乗っても4人乗るとこの間みたいになりますよっ」と、ダメを出す。
キャラバントラック製作
「大丈夫だよ、ここに角材が積んであるだろう、これでハウスを作るんだよ」と、自信満々だ。
「ハウスですか?寒そう」と、女性陣。
「大丈夫だよ、角材をキャラの鳥居部分に載せ、荷台にあるシートを被せて全体をくるんで、部屋を作るんだよ、下はシートを畳んで敷き座布団と毛布を持ち込むと冬でもOKさ」と経験したような口ぶりだ、
女性陣は我が家に戻り物資を集め、男性陣は角材の長さを揃えて三角屋根にシートを架けて、飛ばされないようにロープで縛り、武骨な馬橇の様な部屋が完成。
荷台の運転手側に背を持たせ毛布にくるまって居ると、冬を感じさせない温もりの有るハウスだ。運転はプロの杉本さんがハンドルを握り、健太が助手席に発車オーライ。
トラックキャラバン車は、映画館の隣の旅館の駐車場にお願いして、全員が暫くぶりの映画鑑賞、
何年も映画を見ていないなぁと、思いながら可愛いヘップバーンに魅了された2時間もあっという間に過ぎる。
女性陣のため息の様な感想を聞きながら、暗い映画館の前に出ると杉本さんが
「健ちゃん、車を回して通りに持って来て」と、言う。
「あぁ~そうだ狭いからユックリ走れば大丈夫だよ」と、みんなを連れて通りの方に、わいわい言いながら歩き出す。
健太は、カギをもって駆けるように駐車場から車を出して、グランドホテルの入り口で左右を確認して居ると、バスの駅からお巡りさんが二人歩いてくる。
「あのうチョット良いですか?」と、聞いてくる。
「はい何ですか?」と、答えると
「この荷台は何ですか、」と聞いて来た。一瞬これはヤバいと思ったが遅い。
「これは、角材で荷台を造ったんです」と、健太は正直に話したつもりだが
「変な造りですね、免許証を拝見します」と、丁寧に訪ねて来た。
「実は~」と、言いながら道路を見ると、杉本さんが走ってくる、ホッとする。
「やぁ~斉藤さんこんばんは」と、杉本さんがお巡りさんに挨拶している。
「お知り合いですか、杉本さん」と、お巡りさんが杉本さんに向き直る。もう一人のお巡りさんが荷台のシートを押し開き懐中電灯で眺めている。
「みんなが映画に行きたいというので、こんな改造をして来たんですが、健ちゃんに車庫出しを頼んでしまいました」と、頭を下げる杉本さん。
「若しかして無免許ですか?それにしては上手にやって居たね」と、変な褒め方。
「申し訳ありません」と、健太も頭を下げる。
「あなたは、何歳ですか?」と、聞いてくる。
「はいっ来月20歳になります」と、言うとお巡りさんが何故かホッとした顔になる。
「そうか未だ未成年なんだね」と、念を押す。
「はいっ」と、少し大きい声になる。
「じゃぁ杉本さんは車を運転して、あの派出所まで移動しますか」と、もう一人のお巡りさんに頷き、歩き出す。健太はトボトボとついて行き、杉本さんは照れながらトラックで後ろから徐行している。
後で聞くと、シートを架けたトラックが居ると通報があり、警戒して居たらしい。
みんなは心配そうに覗き見に来たが
「君たちは寒いから荷台に乗って居なさい」と、追い払われ
「本来は、荷台に人を乗せるには許可証が必要だが、堅いことは言いません」と、中年のお巡りさんは凄く寛容な人だった。
簡単な書類にサインし、母印を押して終了。
「後で室蘭の家庭裁判所から呼び出しが来るので、行ってください」と、解放される。
4~50メートルの無免許運転は、家裁で始末書に署名して解放されました。
チョット前に、一日トラックで仕事して事故を起こしことは、時効でしょう
何とも大らかな時代でした。