突然の業務命令
健太叔父さんが支店勤務で、車の免許も持って居ないことは前回ご紹介しましたが、その続きが在りました。
日石がENEOS⇒JXTGに変わる前の話で、昭和30年頃から室蘭港の本輪西の海岸に製油所を建設して居ました。
国有林の風倒木の処理が終わり、カルルス支店からトラックが急に退職して行ったその日に、どんな伝手で決まったのか、我が会社に製油所建設現場の構内で小物の運搬の話があって、社長が飛びついたらしい。
素人商売のツケ
朝、二人の運転手が
「支店長、先月の給料も貰って居ないので、小樽の運送屋に移ることにしました、お世話になりました、社長に宜しく」と、さばさばした顔で小さなボストンバックを抱えて出て行った。
今月だって、仕事をやって居ないので給料は出せそうもない。もっとも支店では会計は居ないし、金も預かって居ないから渡す金も無い。
慌てて受話器を取り本店に連絡
「そう言って、二人とも出て行きました」と、伝えた。
「なぁ~に~」と、社長の声が裏返っている。
「どうしたんですか!社長」と、大きな声で問いかける。
「どうもこうも無いさぁ、折角仕事が来たのに運ちゃんが居ないっ!」と怒っている
「どうして勝手に辞めさせるんだぁ止めないんだよっ!」と、突っこんでくる。
「だって先月から、給料わたして居なんですよ、僕だって出て行きたい位ですよ」と、健太も怒りださす。
「う~ん分かった 運ちゃんを探すよ」と、電話が切れた。
健太は何が分かったのか、納得できないままだ。
その日は、当時に叔母さんたちの写真を撮り、現像・焼き付けに登別に行こうかなと、考えて居ると社長から電話が来た。
夕方社長から誘惑の電話
「健太~お前運転免許が無いのに運転している様だな」と、怒っている声でなく興奮もして居ない。健太はヤバイと思ったが
「はい済みません、勝手に練習して居ました」と、素なおに謝る、
「いや~怒っているんじゃないが、どのくらい出来るんだ」と、ヤケに猫なで声だ。
いやぁ~な気分で
「この校庭から、オロフレ街道の原木置き場で折り返し位です」と、答える。
「お前良く運転できるな、足が届くのか」と、聞くので本当のことを言う。
「座布団を2枚持って行き、1枚を敷いて1枚を半分に折って背中に置きます」
「な〰る程、分かった明日の朝6時まで本店迄車で来い」強い調子だ。
「えっ 幻像と焼き付けが有るんですけど、どうしますか?」
「そんなの撮り枠だけ持って来ればいいだろう、誰かにやって貰えば良い、飯は用意するから心配するな」と、言われた。
此れでは、写真館じゃなくて運送会社の方に重点が行っているような話だ。
夜は、落ち着かなくて眠れない、明日の朝、みんなの前で怒られそうで仮病を使って寝込んで居ようかなど、悶々として寝不足だ。
全社員の出迎え
6時前で暗いのに本店前には大勢の家族社員が立ってる
「どうしたんですか、こんなに沢山集まって」と、健太が車のステップから飛び降りる様に、着地。
社長が弁当の様な包みを差し出し
「朝飯だ、さぁ~乗れっ」と、健太を運転台に押し上げる。
「あぁ~どうしたんですか?社長!」と、大声で聞く。
「これから本輪西に仕事に行くんだ」と、自分は助手台に乗る。どうも別に運転手がいる訳ではなく、このまま健太が運転することになりそうだ。
外に居た2人の先輩も呼ばれて、ゴム長に防寒用の手袋をして作業服で準備していた様で助手席に乗ってきた。
トラックのベンチシートは、可動式ではないので4人が座ることは可能だが、社長はシフトレバーを跨ぐように運転席迄寄ってくる。
「さぁ~行こう」と、社長が急に元気になって命令する。
「これからどこへ行くのですか?」と、聞きながら自分の運転席を作る。
乗せて来た、座布団を畳んでいると、奧さんが
「健ちゃん。座布団を折らないで、2枚入れなさいよ」と、家から2枚の座布団を持って来ていた。夕べの話を聞いて居たらしい。
「お借りします、こんなことになるとは夢にも考えて居ませんでしたよ」と、こぼしながら正面を見る。確かに座布団を折らずに立てかけると、納まりが良い。
助手席に座った先輩が
「健太、これを使えよ」と、軍手を呉れた。
そう言えば、服装は作業用でゴム長だが、素手で運転してきたわけだ。
「有難うございますお借りします」と、軍手をはめてハンドルに手を置く。
「じゃぁ行きます」と、エンジンを掛けた。
「あれっ何処へ行くのですか?」と、素っ頓狂な声をだすと
「まぁ~取り敢えずここから出ろよ」と、社長が不機嫌になる。
不安だが出発進行
「僕は、ここの生まれでは無いので、道が分からないですよ」と言うと
「俺も分からないが、夕べこの地図で確認したので、走りながら教えるからこの道路を登別駅前まで走れ」と、言う。
登別駅までは、バスで通っているのでイメージはある。ほとんど下り勾配で、あの国道を右に曲がるのかなと、考えながら走り出す。
社長が、仕事の手順を話し始める。
本輪西の海岸に、製油所を作って居るが工事現場の小物を移動する車が無くて、小回りの利く車が必要らしい。
現場は、ごちゃごちゃして分かり辛いから分かる人間を乗せるから、その指示で動くこと。
運転手以外は、荷の積み下ろしを遣って貰う。
反復移動もあるから、その時は運転手だけの場合もいい。
まだ雪は積もって居ないが、水たまりは凍っている。
国道36号を西に向かって走って居ると、幌別川の橋が工事中で道路は海の方に迂回されUの字の様に曲がっていた。
東室蘭で90度のカーブになり国道37号になった、殆ど道なりで本輪西の工事現場に着いた。健太は此れだけで、充分疲れた。
次の行は、現代の室蘭・本輪西付近です。
現状の国道37号の陣屋町から、測量山の岬に向けて”白鳥大橋が掛けられたようです、60年くらい前からの構想で42年前に完成したようです。
60年前と言えば、健太が登別に就職したころですね、あの山の麓に南部藩の陣屋があって地名も陣屋として残り、その海岸を埋め立て、石油室蘭製油所を建設して居ました。